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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)71号 判決 1975年3月20日

控訴人

キヤタピラー三菱株式会社

右訴訟代理人

木戸孝彦

ほか二名

被控訴人

恒松勝之

被控訴人

信濃開発株式会社

右両者訴訟代理人

熊沢賢博

主文

一  控訴人の被控訴人信濃開発株式会社に対する控訴を棄却する。

二  原判決主文第三項中被控訴人恒松勝之に関する部分を、つぎのとおり変更する。

(一)  被控訴人恒松勝之が昭和四七年四月四日に被控訴人信濃開発株式会社から原判決目録記載三の土地を譲受けた行為は、これを一二九万九八三七円の限度で取消す。

(二)  被控訴人恒松勝之は、控訴人に対し、金一二九万九八三七円を支払え。

(三)  控訴人の被控訴人恒松勝之に対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じて、控訴人と被控訴人恒松勝之との間に生じた分をこれを一〇分し、その九を同被控訴人その余を控訴人の各負担とし、控訴人と被控訴人信濃開発株式会社との間に生じた分は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一控訴人の請求原因事実の確定については、次の(一)(二)をつけ加えるほか、原判決六枚目表初行から同枚目裏七行目までの理由記載と同一であるから、これを引用する。(ただし、原判決六枚目裏初行「物件の」の後に「昭和四七年四月四日」を加える。)

(一)  控訴人が当審で新たに主張した本判決「事実」二(一)事実は、被控訴人らの明らかに争わないところである。

(二)  当審における鑑定人竹村一澄の鑑定の結果によれば、右共同担保土地の評価は、詐害行為時たる昭和四七年四月四日現在で金二七六万円であると認められる。

二被控訴人恒松主張の「善意」の抗弁は、被控訴人会社代表者の原審における供述中にその主張にそう趣旨の供述部分があるが、これを信用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。

三以上の事実によれば、被控訴人会社が被控訴人恒松に対し本件一、二、三の各土地を無償譲渡したことは、債権者たる控訴人を害する詐害行為となることが明らかであるところ、<証拠>によれば、本件一、二の土地には右両土地を共同担保としてその上に訴外株式会社八十二銀行を権利者とし昭和四五年五月二九日付基本契約に基く元本極度額金四〇〇万円、損害金日歩五銭なる約の根抵当権が設定され、その旨の登記を経由していることが認められ、その被担保債権の実際額については、被控訴人らにおいて三五〇万円であると自認し、控訴人はこれを争うも他に何らの訴訟資料もないから、結局本件一、二の土地は右同額の優先債権を担保する抵当権の目的となつていると推認すると、右両土地の前記評価額の合計七三〇万円から右三五〇万円を差引いた三八〇万円の余剰価値は、一般債権者のための一般財産から逸出したことになる。そして、控訴人は、詐害行為取消権の行使により右両土地を取戻して右余剰価値を回復しても、控訴人の債権は、前出甲第一ないし四号証によると売買残代金が四六二万七八〇一円、これに対する昭和四六年一二月二五日から昭和四七年四月四日までの日歩一〇銭の約定遅延損害金債権が四七万二〇三六円、以上合計五〇九万九八三七円であるから、その差額一二九万九八三七円についてなお詐害されているといわなければならない。

四そこで、本件控訴において不服の対象となつている本件三の土地についても、その無償譲渡を取消すべきであるかどうかを検討すると、本件三の土地についても、前示のとおり同土地と共同担保土地とを共同担保としてその上に根抵当権が成立し、<証拠>によれば、その根抵当権は、訴外松本信用金庫を権利者とし、昭和四五年一〇月二八日付基本契約に基く元本極度額五〇〇万円利息日歩三銭以内、損害金日歩五銭の約定の根抵当権であつて、その旨の登記を経由していることが認められる。

このように、複数の不動産が共同抵当の目的となつている際、抵当権者は数個の不動産のどれからでも自由に優先弁済をうけられる関係にあるから、各個の不動産は、それぞれが被担保債権の全額を担保していることとなり、また、必ずしも右各不動産が常に同時競売同時配当によつてその負担の按分衡平が図られるとは限らないことは言うまでもない。しかしながら、詐害行為取消の対象となる債務者の財産が特別担保権を負担していても、なおそれでも余剰価値が存してその限度で一般財産を構成するかどうか、構成するとしてその価額をいかに算定するかということを考える場合には、いわゆる余剰価値の客観的把握を必要とするから、共同抵当の目的となつている全不動産の評価額の総計から優先権ある被担保債権額を控除したその残額が、一般財産を構成し、詐害行為取消の対象となると解するのが相当である。

ところで、本件三の土地と共同担保土地の両者の上に成立する共同抵当権の被担保債権の実際額について、被控訴人らは五〇〇万円であると主張し控訴人はこれを争うも、他に何らの訴訟資料もないから前記登記簿の記載も併せ考えて、右両土地は金五〇〇万円の優先債権を担保する抵当権の目的となつていると推認するところ、原審における鑑定によれば本件三の土地の昭和四八年五月現在の時価は五〇〇万円であり、同鑑定の全趣旨から同土地は一年間に一〇パーセント程度値上りしたものと認め、昭和四七年四月の詐害行為時には四五〇万円の価値を有していたと認められるから、その当時の共同担保土地の価値と合計すると、それは前記根抵当権が目的物件について把握している価値を超えることが明らかであり、したがつて本件三の土地を無償譲渡することは、債権者たる控訴人を詐害する行為であるといわなければならない。

このように抵当権の負担のある不動産の処分が詐害行為となる場合に、(い)他に妨げとなる事由のない限り処分行為全部を取消して移転登記の抹消等目的物自体の取戻しを許すべきか、(ろ)いわゆる余剰価値を処分した部分のみを取消してその価格賠償しか許さないとするか、は説の分れるところであり、いずれも詐害行為取消という制度における原状回復の方法であることはいうまでもない。前者((い))は、詐害行為の取消をする以上目的財産自体を原状に戻すことが制度本来の趣旨でありそれが原則であるという考えに立脚するのであろうが、思うに詐害行為取消の制度は一般債権者を保護するため、その債権保全の限度で債務者の財産処分行為を債権者に対する関係でのみ相対的に取消すものであり、その余の関係では詐害行為といえども本来有効な行為であるから、原状回復の方法は、一般債権者の損害が回復される最少限度にとどめるべきであると解するのが妥当である。したがつて、当該処分の目的物の上に特別担保権の設定があり、その把握している交換価値が一般債権者のための一般担保となつていないときは、その部分については当然に詐害行為が成立せず、この場合には原則としてその余の部分、すなわち一般担保を構成していた余剰価値が逸出した部分だけを取消して、その価格賠償を命ずるべきである。

そして、この見地に立つて、その価格賠償の価格を算定するにあたつて、その基準時をいつにするかということもまた一個の問題であるが、詐害行為取消による原状回復は目的物自体の取戻しが本則であるところ、それが種々の事由によつて価格賠償に変ずる場合には、その価格賠償に変じた時点、つまり評価額が目的物それ自体と代つた時を基準とすべきであると考えられるから、本件の如く一つの処分行為中に詐害行為の成立しない部分が存し、原状回復の方法として価格賠償によらざるを得ないときは、その詐害行為のあつた時点(本件では昭和四七年四月四日)を基準にして決すべきである。

そして、本件三の土地の無償譲渡行為については、その詐害行為時における評価額は前記認定のとおり四五〇万円であり、他方同時点における共同担保土地の評価額は二七六万円であり、この両土地の上に設定されている共同抵当権が把握している担保価値は前示のとおり五〇〇万円であるから、その負担を各土地の評価額に応じて割りつけると、本件三の土地は三〇九万九一七四円、共同担保土地は一九〇万〇八二六円の各負担を負つていることになるので、本件三の土地について本件詐害行為によつて逸出した余剰価値は一四〇万〇八二六円であると認められるところ、本件三の土地の譲渡を取消して保全されるべき控訴人の債権額は、前示のとおり一二九万九八三七円であるから、被控訴人恒松は、この債権額の限度で価格賠償をすべき義務がある。《以下、省略》

(久利馨 舘忠彦 安井章)

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